|ゲルマラジオに遭遇す|目覚め|タンパを知る|アマチュア無線を知る|
|初めての送信機|
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ゲルマラジオの夜中受信実験も1週間ほどで飽きてきた。何せ音が小さい。叔母の5球スーパーは色んな放送が聴けるしスピーカーから音も出る。何とかカイゾウできないものかと思ってみるが悲しいかな何も知らない。子供の科学を片っ端から読み返しても何も書いてない。
当時小僧は器械体操の真似事をやっていた。近所のお兄さん(当時大学生だったと思う)が小学校の校庭にある鉄棒で大車輪なんかを練習していて、見よう見まねで出来るようになり、そのお兄さんに気に入られよく遊んで貰っていた。まあ、小学4年生が独学で正車輪をするのだから、単に珍しがられただけかもしれないが。ともあれ仲良くはして貰っていたので、あるとき唐突に尋ねてみた。
「お兄さん、ゲルマラジオって知ってる?」 知らないだろうなこんな難しいこと・・と生意気なことを思いつつ。「ああ、知ってるよ」返事はあまりに簡単だった。小僧、次の言葉が出てこない。「どうしたんだい、ゲルマラジオを作りたいのかい」とお兄さん。「いや、そうじゃなくて、ゲルマラジオは持ってるんだ」と小僧。「ええっと、ゲルマラジオをもっと大きな音で鳴らしたいんだけど」
お兄さんは一度家に遊びにおいでと言って帰っていった。
お兄さんの家と小僧の家は同じ町内会だったが近所付き合いは殆ど無かったし、お兄さんのお兄さんが怖い人というイメージを何故か持っていたので、1週間ほどもグズグズしてしまう。しかしカイゾウの誘惑には勝てず意を決して尋ねてみた。お兄さんが出てくることを期待して。「こんにちは」「はい、どなた」声の主はお兄さんじゃない! 出てきたのは兄貴の方だ。すっかり気が動転して固まってしまった小僧に兄貴が一言。「ああ、あいつから聞いてるよ。入んな」
「こっちへ来い」と言われ恐る恐る入った部屋の中には見たことも無い部品や真空管がゴロゴロしている。呆然としている小僧にひとつの部品を手渡し、「同調コイルをこいつと交換してみな」と兄貴。「半田付けは出来るか」「いいえ」「じゃ、これも持ってけ」と半田ゴテとハンダを手渡され、走って家に帰るのだった。
手渡されたコイルがスパイダーコイルという物であることを知ったのは、お兄さんと鉄棒の練習で一緒になった数日後のことだったが、同調コイルを交換してみると音が多少大きくなり、今迄聞こえていなかった放送も少し聞こえて來る。小僧、カイゾウの蜜の味を知った>瞬間である。
さて、お兄さんからコイルのキューだのキョウシンシュウハスウだのキャパシタンスだのインダクタンスだのといった言葉だけはせっせと丸暗記した小僧、兄弟にさも知ってるかのごとくゴタクを並べて悦に入っていたが、それだけではカイゾウは進まない。ちょっと前進したかに思えた勉強を忘れてしまっているせいなのだが、突然閃いた。「そうだ、アンテナだ!」以前、電灯線アンテナで興奮したから覚えている唯一と言っていいカイゾウ知識だからなのだが、本人そんなことは気付かない。自分で発見したように思ってる。
早速近所の書店に行って「アンテナについて何か書いてある本はどれ?」と店主に聞いてみるが聞かれた店主が困ってしまう。そりゃそうだ。小学4年生にどんなアンテナの本を薦めりゃいいのだ。それに店主は理系じゃない。「そんな本はないなあ」と言われて困った小僧、兄貴の家へ行ってみた。
「こんにちは」「おお、坊主か。どうした?」「いいアンテナはどうやって作るんですか?」「アンテナか。色々あるが、あのゲルマラジオのアンテナか?」「はい、そうです」「だったら、電灯線アンテナが良いんじゃないか?」知ってる言葉が飛び出した。小僧、満面の笑みで答える。「それはもう試したんですがイマイチで」「ふ〜ん、そうか。で、差し込むコンセントの場所は変えてみたか?」「えっ」予想外の返答である。
てっきりたいしたもんだなと褒められると思っていた。
家に帰りいつものコンセント以外のコンセントに差し込んで音の違いを確かめると確かに差し込むコンセントによって音の大きさが違う場所があるようだ。また新しい知識が増えた。